酒粕を「粉末原料」として見てみる。昔ながらの発酵素材は、なぜ今「酒粕パウダー」になっている?

成分情報

粕汁や甘酒、粕漬けなど、日本では昔から身近な食材として使われてきた酒粕。

「酒粕」と聞けば、白くやわらかな板状やペースト状のものを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

そんな昔ながらの酒粕が、現在では乾燥・粉末化され、「酒粕パウダー」という食品原料としても使われています。

酒粕そのものは決して新しい素材ではありません。それなのに、なぜわざわざ粉末にするのでしょうか。

実は、食品の商品開発という視点から見ると、「粉末になること」には大きな意味があります。

保存のしやすさ、計量や配合のしやすさ、ほかの原料との組み合わせ、そして使える商品の幅。

今回は、昔から日本で親しまれてきた酒粕を「酒粕パウダー」という食品原料の視点から改めて見ていきます。

そもそも酒粕とは?日本酒造りから生まれる発酵素材

酒粕は、日本酒を造る工程で生まれる食品です。

日本酒造りでは、米、米麹、水、酵母などを使い、発酵によって「もろみ」を造ります。そのもろみを搾ると、液体である日本酒と、固形分である酒粕に分かれます。

名前に「粕」と付いているため、不要になった残り物のような印象を受けるかもしれません。

しかし、日本では酒粕は古くから食材として利用されてきました。

酒粕を水や砂糖と合わせて作る酒粕甘酒をはじめ、粕汁、魚や肉の粕漬け、鍋料理、菓子など、その使い方はさまざまです。

農林水産省も、日本の伝統的な食文化を紹介する「にっぽん伝統食図鑑」の中で、酒粕を日本酒などの製造時に生まれる副産物であり、食材として利用されているものとして紹介しています。

つまり酒粕は、「最近になって利用されるようになった副産物」ではありません。

日本酒造りから生まれた素材を、食べ物として再び暮らしの中に取り入れる文化は、昔から日本に存在していました。

現在の酒粕パウダーも、その延長線上にある素材と考えると分かりやすいかもしれません。

生の酒粕には、食品原料として扱いにくい部分もある

昔から食べられてきた酒粕なら、そのまま商品に使えばいいのでは?と思うかもしれません。

家庭で料理に使う場合と、食品メーカーが原料として扱う場合では、求められる条件が少し違います。

たとえば、生の酒粕には水分やアルコールが含まれています。

白鶴酒造によると、一般的な生の酒粕には水分が約40%、アルコール分が約10%含まれています。

また、時間とともに熟成が進みやすいため冷蔵・冷凍での保存が必要となり、固形物であることから、ほかの原料と均一に混ぜる際にも手間がかかります。

家庭で粕汁を作ったり、魚を漬けたりするのであれば、それほど問題にならないかもしれません。

しかし、食品を一定の品質で継続して製造する現場では、

保存しやすいか
運びやすいか
必要な量を正確に計量できるか
ほかの原料と均一に混ぜられるか
製造ラインに組み込みやすいか

といった「原料としての扱いやすさ」も重要になります。

そこで考えられた方法のひとつが、酒粕を乾燥させて粉末化することです。

酒粕を粉末にすると、何が変わる?

酒粕を乾燥・粉末化する大きな目的のひとつは、食品原料としての扱いやすさを高めることです。

白鶴酒造では、酒粕を粉末化するメリットとして、保存性の向上、計量や配合のしやすさ、アルコール分の低減などを挙げています。

水分量が大きく減ることで常温保存が可能になり、冷蔵・冷凍保管に比べて保管や物流面で扱いやすくなります。

また、固形の酒粕から粉末になることで、必要量を量ったり、ほかの粉末原料と混ぜたりしやすくなります。

さらに乾燥工程ではアルコールが揮発します。

ただし、「酒粕パウダー=アルコールが完全にゼロ」という意味ではありません。実際のアルコール規格は原料によって確認する必要があります。

白鶴酒造が開発した酒粕粉末の場合は、最終製品のアルコール分を1%以下の食品規格としています。

こうして見ると、「酒粕」と「酒粕パウダー」は原料の由来こそ同じでも、商品開発での使い勝手には違いがあります。

酒粕を粉末にすることは、単に形を変えるだけではなく、昔ながらの食材を現在の食品製造で扱いやすい原料へと変える加工でもあるのです。

酒粕にはどんなものが含まれている?

酒粕の面白さは、日本酒を搾ったあとにも、米や麹、酵母に由来するさまざまな成分が残っていることです。

そのため、米由来の成分だけではなく、酒造りに使われた麹や酵母に由来する成分なども含まれています。

日本醸造協会誌では、酒粕に含まれる成分について研究報告がまとめられており、酒粕にはたんぱく質などが含まれるほか、「レジスタントプロテイン」と呼ばれる消化されにくい性質を持つたんぱく質についても研究されています。

白鶴酒造も、酒粕には米の未消化成分や酵母菌体、たんぱく質、アミノ酸、食物繊維などが含まれると説明しています。

ここで気をつけたいのは、「酒粕ならすべて同じ」というわけではないことです。

使用する米や日本酒の製造方法、酒粕の状態、さらに乾燥・粉末化の方法などによって、最終的な酒粕パウダーの特徴や規格は変わります。

実際に白鶴酒造が紹介している酒粕粉末でも、100gあたりのたんぱく質量が37.3gの「バランスタイプ」と、60g以上を含む「低糖質高たんぱく質タイプ」があります。

同じ会社の「酒粕粉末」だけを見ても、この違いです。

そのため商品開発では、「酒粕には○○が含まれているらしい」という一般的な情報だけで判断するのではなく、実際に採用する原料の規格書や分析データを確認することが重要になります。

酒粕パウダーは、実際にどんな食品に使える?

粉末になった酒粕の面白いところは、従来の酒粕料理とは違う食品にも取り入れやすくなることです。

実際に業務用食品原料として酒粕パウダーを販売している井村屋フーズでは、用途としてパン生地、めん類、飲料、冷菓素材などを挙げています。

つまり、酒粕パウダーは「甘酒を作るための粉」ではありません。

パンや焼き菓子の生地に配合する。
麺類に取り入れる。
飲料に使う。
アイスなどの冷菓に使う。
スープや調味食品に応用する。

こうした商品への展開が考えられます。

酒粕を加工した業務用素材まで範囲を広げると、さらに用途は広がります。

大関では、酒粕を加工した業務用調味料を開発し、製パン・製菓、水産・畜産加工食品、麺類、スープなどでの採用事例を紹介しています。

興味深いのは、酒粕が単に「酒粕味を付けるもの」としてだけ使われているわけではないことです。

大関では、酒粕調味料の特徴として、うま味の増強や風味の向上、マスキング、食感保持なども挙げています。

酒粕という素材を考えるとき、「酒粕らしい味の商品を作る」という発想だけではなく、食品の風味や物性にどう働くかという視点もあるのです。

健康食品の原料として使われている実例もある

酒粕パウダーは、一般食品だけではなく健康食品にも使われています。

白鶴酒造では、自社製造の酒粕粉末とユーグレナを組み合わせた「白鶴酒造の酒粕ユーグレナ」というサプリメントを2024年に発売しています。

実際の商品では、1日の摂取目安量である5粒に酒粕粉末500mgが配合されています。

ここで少し注意したいのが、この商品が機能性表示食品だからといって、「酒粕に表示されている機能がある」という意味ではないことです。

この商品の機能性関与成分は、ユーグレナ由来のパラミロンです。

酒粕そのものの機能性を表示している商品ではありません。

健康食品の商品事例を見るときには、「何が配合されているか」と「どの成分について機能性を表示しているのか」を分けて見る必要があります。

一方で、酒粕粉末が実際に錠剤タイプの健康食品へ配合され、市場に出ていること自体は、酒粕パウダーの用途を考えるうえで興味深い事例です。

昔ながらの酒粕が、粉末化されることで現代の健康食品にも組み込まれるようになっています。

酒粕は「味」だけでなく、食品開発の素材として研究されている

酒粕の商品用途は、現在販売されているものだけではありません。

食品研究の分野でも、新しい使い方が検討されています。

農研機構では、日本独自のナチュラルチーズ開発の研究として、麹を使ったチーズに酒粕を加えた「酒粕麹チーズ」の研究を行っています。

この研究では、酒粕を加えることで乳酸菌の生菌数が増加したことや、色調、コク味に関わるペプチドなどに変化が確認されています。

これは酒粕パウダーそのものを使った研究ではありませんが、酒粕という素材が「日本酒の風味を付けるもの」という枠を超えて、新しい食品を作るための素材として研究されていることが分かる例です。

昔からある食品だから、使い方も昔のまま。

必ずしもそうではありません。

食品加工技術や研究が進むことで、すでに存在している素材から新しい商品が生まれることがあります。

酒粕も、そうした原料のひとつです。

「酒粕パウダー」という名前だけでは原料を選べない

商品開発で酒粕パウダーを採用するときには、「酒粕パウダーがあるかどうか」だけを確認すればいいわけではありません。

まず確認したいのが、原料そのものの規格です。

どのような酒粕を使用しているのか。
どのような方法で乾燥・粉末化しているのか。
アルコール分はどの程度なのか。
たんぱく質などの分析値はどうなっているのか。
風味や香りはどの程度残っているのか。
粒度や溶解性はどうなのか。
保存条件や賞味期限はどうなっているのか。

さらに、実際に商品へ配合するときには、その商品の剤形や製造方法との相性も考える必要があります。

たとえば、パン生地に混ぜる場合と、粉末飲料に使う場合では、原料に求める性質は同じではありません。

酒粕の香りを商品コンセプトとしてしっかり残したい場合もあれば、ほかの素材と組み合わせるため、風味を抑えたい場合もあります。

「酒粕パウダー」という原料名は同じでも、作りたい商品によって選ぶべき規格は変わる可能性があります。

これは酒粕に限らず、粉末原料を使った商品開発では大切なポイントです。

昔ながらの酒粕を「原料」として見直してみる

酒粕は、新しく発見された素材ではありません。

日本では昔から食べられてきた、とても身近な発酵食品です。

だからこそ、「酒粕で何か新しい商品を作る」と聞くと、少し不思議に感じるかもしれません。

しかし、食品の商品開発では、新しさは必ずしも「誰も知らない原料を使うこと」だけではありません。

生の酒粕を乾燥させる。
粉末にして扱いやすくする。
従来とは違う食品に配合する。
ほかの素材と組み合わせる。
酒粕が持つ風味や食品素材としての特徴を別の商品に生かす。

こうした工夫によって、昔からある素材にも新しい用途が生まれます。

酒粕パウダーは、「酒粕」という日本の伝統的な食品を、現在の商品開発で使いやすい食品原料として見直したもののひとつです。

日本には、酒粕以外にも、昔から使われてきた発酵素材や地域の食品、食品製造の工程から生まれる素材が数多くあります。

新しい原料を探すことと同時に、すでにある素材を「今の商品ならどう使えるだろう?」という視点でもう一度見てみる。

そこから、新しい商品アイデアが生まれることもあります。

海外向けの商品開発で、日本の発酵文化や日本ならではの食品原料をどのように商品価値につなげるかについては、「『Made in Japan』だけでは選ばれない?海外向け健康食品OEMで求められる日本独自の原料・技術・商品開発」でも詳しく紹介しています。

Naturalinkでは原料探しからOEMまでサポートしています

Naturalinkでは、酒粕パウダーをはじめ、発酵素材や植物素材など、さまざまな食品原料を探し、商品コンセプトに合わせた原料選定からOEMでの商品化までサポートしています。

「酒粕パウダーを使った商品を作りたい」
「発酵素材を使いたいけれど、どんな原料があるか分からない」
「作りたい商品のイメージはあるけれど、原料はまだ決まっていない」

そんな段階からでも、商品コンセプトや販売市場、希望する商品形態などを確認しながら、商品に合った原料を一緒に検討していきます。

 

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